2013年4月20日土曜日

サトウコウタ展『小さな灰色の脳細胞』作品紹介(5)/江戸川乱歩と横溝正史

ようやく最終回。
展示作品に付けたキャプションから、本の背表紙などに書かれている文から引用した”あらすじ”と、僕自身の感想である”作品について”も紹介しています。


『屋根裏の散歩者(探偵:明智小五郎)/江戸川乱歩』

あらすじ
下宿屋東栄館の屋根裏を歩きまわるのはだれか?それは犯罪嗜好癖をもつぶ気味に男・郷田三郎であった。かれは天井裏の小さな節穴から毒薬を落とし、下に寝ていた同宿者のひとりを殺した。自殺としてかたづけられようとしたこの事件を、郷田三郎が犯した奇妙な犯罪と見破った明敏な推理力の持ち主こそ、素人名探偵・明智小五郎であった。


作品について
江戸川乱歩とはエドガー・アラン・ポーのもじりであり、乱歩はポーを敬愛するあまり自分のペンネームにしてしまいました。犯人の心理描写から導入する作風にポーの倒叙ミステリーの影響が見られます。犯人が犯行に及ぶまでの心理を中心に、突然現れた探偵・明智小五郎との頭脳と心理合戦。結末は明智の勝ちと分かってはいても、いつの間にか犯人に愛着を持ってしまっている人間の心情の不思議さに複雑な気分です。





『犬神家の一族(探偵:金田一耕助)/横溝正史』

あらすじ
信州財界一の巨頭、犬神財閥の創始者犬神佐兵衛は、血で血を洗う葛藤を予期したかのような条件を課した遺言状を残して永眠した。佐兵衛は生涯正室を持たず、女ばかり三人の子があったが、それぞれ生母を異にしていた。一族の不吉な争いを予期し、金田一耕助に協力を要請していた顧問弁護士事務所の若林がやがて何者かに殺害される。だが、これは次々と起こる連続殺人事件の発端にすぎなかった!血の系譜をめぐる悲劇、日本の推理小説史上の不朽の名作!!


作品について
推理小説で泣く、というのは始めての経験でした。この作品の舞台は、いつも薄暗く霧深い山荘で、常に憎念が渦巻いた犬神家の親族の間にあった、ラストに歪んでいても深い愛の一片が見えたとき、突然涙が溢れてきたのでした。 映画は市川崑監督によって幾度か映画化されており、このミステリアスでアブノーマルな世界に挑戦したくなる気持ちはよくわかります。イラストは犬神家の家宝「斧・琴・菊」。





『屋根裏の散歩者』は何故か男性の方から特に評価が高かったです。持ち込みで見てもらう先でも男性の担当さんからは特に評価をいただくことが多いです。
『犬神家の一族』はとにかく未読の方には読んでほしい一冊です。読めばわかる!




さて、ずいぶん間をあけての作品紹介になってしまいましたが、これで完結です。
今更ですが、改めまして展示にいらして下さった皆様、本当にありがとうございました。
ご無沙汰だった人、最近知り合った人なども足を運んで下さって、とても嬉しかったです。
またの機会に新作を見ていただければ幸いです。

2013年4月11日木曜日

サトウコウタ展『小さな灰色の脳細胞』作品紹介(4)/ヴァン=ダインとコナン・ドイル

だいぶ間が空いちゃいましたが、個展の作品紹介、続けます。
展示作品に付けたキャプションから、本の背表紙などに書かれている文から引用した”あらすじ”と、僕自身の感想である”作品について”も紹介しています。

『グリーン家殺人事件(探偵:ファイロ・ヴァンス)/S・S・ヴァン=ダイン』

あらすじ
ニューヨークの街中で、絶えずいがみ合い反目し合っている5人の子供達が住む古邸グリーン家。ある夜、そのグリーン家で2人の娘が何者かによって銃撃される。この事件を皮切りに、一家の皆殺しを企てる姿なき殺人者が跳梁する。


作品について
この時代の推理小説の動機は大抵、財産や妬み、恨み、敵討ちがほとんどですが、この事件の犯人は決定的に心の飢えた人間として登場します。そんな欠けた心を持った犯人像には、無欠の名探偵とは違う深い魅力があります。 一方探偵のヴァンスは、財産、容姿、頭脳にまで恵まれ、恵まれすぎて堕落しかけているというダメ人間ぷりで犯人に負けていません。しかし本書一番の見所は訳者の坂下昇先生の江戸っ子なセリフ回しでした。「へえ、あっしでござんす。」





『恐怖の谷(探偵:シャーロック・ホームズ)/アーサー・コナン・ドイル』

あらすじ
シャーロック・ホームズ最後の長編は、彼の最大の敵、悪の天才モリアーティ教授との喰うか喰われるかの死闘であった。イングランドの山村に起きた殺人事件は、アメリカ開拓時代の過去にさかのぼって、悪の集団のおそるべき正体を暴露する! ドイル十八番の伝奇的要素を豊富にもりこんだ本書は、すさまじい迫力で読者をひきずりこむのだ。


作品について
ホームズ永遠のライバル、モリアーティ教授との因縁が結びつけた事件。モリアーティ自身は出てきませんが、彼の組織の影響が如何に強大で根深い影を世界に落としているか、この背景の作り込みが素晴らしいです。 二部構成で後編の恐怖の谷を、ジョンフォードの「我が谷は緑なりき」の炭坑村、フレデリック・バックの「木を植えた男」の荒んだ村をミックスしてイメージしてみました。





ヴァンスとホームズは、頭脳、容姿、肉体、そして社会的地位や経済に置いても非の打ち所の無い人間として登場します。 「グリーン家〜」のキャプションにも書きましたが、この二人、事件が無いと鬱になって寝込んでしまったり、無気力で人生に失望してしまったりするという、ちょっとおかしな人たちです。
ワトソンに至っては「痛々しくて見ていられない」というようなことまで言っています。天才故の苦悩というやつでしょうか。




次回は最終回。江戸川乱歩と横溝正史です。